この夏、読んだ中では最もインパクトの大きかった作品。
Sub title に"The Rise of the Private Military Industry" とあるように、90年代以降(湾岸戦争以降)、戦争という行為、すなわち、兵士・兵器の供給、情報収集等一連の活動が民間会社(PMF)に外注されることがポピュラーになった。本書はこの新たなフェーズに関する現状分析を数社の事例を中心に展開する。私が購入したのは2nd edition(2007)であるが、これには初版(2002)に加えイラク戦争(2003~)におけるPMFの機能に関する考察を追補としている。
経済の教科書などでも安全保障は道路・水道整備などと並んで市場性が低く、官でやるべきものと仕分けされてきた。が、軍事産業もその進化に伴い、技術・戦略・武器及び人材調達など根幹的な部分で民の力を借りざるを得ないフェーズに入ってきている。例えば、ペンタゴンは、MRRI、DFI、Logicon などのPMFに研修・アドバイザリーなどを委託している。
驚くべきは、これらPMFと提携しているのは政府のみではない点。先ごろ原油流出で世間を騒がせた石油メジャー・BP をはじめとする民間企業、メキシコ麻薬組織・コロンビアゲリラなどの反政府組織などもPMFと契約し、独自の傭兵を囲っている。
これらPMF台頭の背景には、冷戦終結による戦争形態の変容(国対国からイデオロギー闘争へ)、人材の余剰(元軍人、さらにはもと囚人なども傭兵に)、武器の余剰と民間流通ルートの開発、などが挙げられる。
湾岸戦争を皮切りに、90年代国際社会を揺るがしたアフリカ諸国やバルカン半島での内戦、すべてにPMFが噛んでいる。とくに"EO"こと"Execute Outcomes"がシオラレオネ内戦で行った民間人虐殺は悪名高い。
PMFには、3階層あり、前線に近い順に
1.Military Provider: 〈代表例〉EO
2.Military Consulting Firm:〈代表例〉MPRI (Military Professional Resources Incorporated)
3.Military Support Firm: 〈代表例〉BRS (Brown & Roots Service, 大手ゼネコンHalliburtonの一部門)
と分けられる。それぞれの役割・強みがあるが、その境界はやや曖昧な感は否めない。
PMFの課題としては、PMFと政治的権限あるいは政治的思想との結合/分離の在り方(戦災国復興までPMFに任せてよいのか、相反するイデオロギーを有する戦争主体に一会社が傭兵を派遣することの是非)、国の正規の軍とPMFとの連携不足(PMF=即席のため、軍の規律やオペレーションに従わないという不満)、PMFのインセンティブ(経済性=報酬だけでよいのか)のあり方、人権をめぐる諸問題などなど枚挙に暇がない。が、これら筆者が発していた警告が届くまでもなく、USはイラク戦争に突入、PMFの独自の発展に法整備・環境整備がますます追い付かなくなってきた、と追補で筆者は嘆く。
歴史的には戦争行為により覇権を有したオランダ西インド会社(17C)などの例もあるが、このままPMFを野放しにしていくと、企業間の本当の意味での戦争、暴力による市場の支配、などという恐ろしい現実(これぞ資本主義の究極形?)が待ち受けているかも知れない。アメリカだけならまだしも、先ごろ日本を抜いて世界No.2になった国が本腰を入れようものなら…。
2010年8月19日木曜日
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