2009年11月17日火曜日

King is on the stage

少し古くなったが、“This is it”。
 決して涙を誘う類の映画ではないと思う。ただ半世紀にわたり人類へのGiftとして実在したMichealという生命体のもつエネルギーに圧倒される。映像は、淡々と死ぬ直前のMicheal Jacksonのリハの様子を追い続ける。往時の名曲が2009年風にアレンジされ、パワーアップしてスクリーンに再現される。(PVのセルフ・リメイクは斬新。“Thriller”, “Beat it”, “Smooth Criminal”...数々の歴史的PVを残したMJだからこそ成り立つモデルか)
 まさに、前宣伝にあったように、MJのショーを最前列で見ているような贅沢さ、しばし死者と生者という境界、そして勘繰りを完全に忘れてしまう。そして、いい味を出しているのが、幻の“This is it” Tourに参加予定だったクルー達。厳しいオーディションを勝ち抜いた者、以前からMJから見初められていた者(金髪の女性ギタリスト too cool!)、ゲスト参加の者、それぞれの立場でリスペクトするMJのショーを精一杯盛り上げようとする。完璧主義者であるがゆえ、時には厳しくスタッフに意見するMJ。そんな自身の言動によって場の雰囲気を壊さないようにフォローするMJのひと言が最高である。 “I'm not angry. It's love." 

反面教師のプロジェクトX

『ロズウェルなんか知らない』by篠田節子
 篠田節子のアイデンティティといえば、元公務員(八王子市役所)という市井人・職業人的視点から、世相・事件の内側をさらけ出し、「あなたの周りでもこんな騒動は起こり得ますよ」と警鐘を鳴らす、あるいは滑稽さに拍車をかけてとことんエンタメ化する、「劇場型○○(事件or犯罪or政治or)」の狂言回し的作風であろう。
 「UFOによるまちおこし」をテーマを据えた本作においてもその真骨頂は遺憾なく発揮される。舞台のモデルは山梨あたりの寂れた温泉街か。そこに住む若い衆(といっても40前後)のちょっとした気まぐれが、UFOスポットとして、突如オカルトマニアを発火点とした脚光を浴びることになり、そこに住む人々の生活を翻弄していく・・・。世代の断絶、都市と地方の格差、といったやや普遍性を帯びた構造的問題が物語の根底にあるわけだが、それらを最近とみに弱者に容赦なくなったネット掲示板やマスコミがここにも登場し、増幅させ、あげくの果てには田舎に住む人々を翻弄してゆく。さらには、ビジットジャパン、モンスターカスタマー、などなど昨今の世相を反映する設定や登場人物が散見され、作者が00年代をどのように捉えているかがうかがわれ、非常に興味深い。これを読めば、最早、手つかずの辺境、喧噪とは無縁の田舎暮らしなど日本ではあり得ないことを実感させられる。
 ちなみに、タイトルはアメリカで約半世紀前に起きた有名なUFO事件らしいが、私自身知らないのはさておき、作者も本当に知らなかったと吐露している(あとがきタイトルが「ロズウェルなんて本当に知らない」)のには笑った。SFやオカルトを出発点として、それを対極のビジネス・ドラマに昇華してみせたひとつの到達点とでもいうべき作品である。篠田節子作品は、本作に限らずどのジャンルにも縛られないし、逆にどのジャンルでも通用する厚みと深みを持ち合わせている。

2009年11月6日金曜日

遠ざかっていくミステリー作家

「ダーク」by 桐野夏生
主人公である女探偵・村野ミロはじめ登場人物のすべてに共感できず。
 「水の眠り 灰の夢」に端を発する村野シリーズの最終版となる本作であるが、ミロの父である村野善三(新聞記者からヤクザの事件屋になった男)が他界、父殺しの嫌疑をかけられたミロが追われ、偽造パスポートまで作って韓国に逃亡、そこでキメ・セックスや偽ブランド商に手を初め、日本人の商社マンにレイプされ、だんだんとアンダーグラウンドの深みにはまっていく、というのが大まかなストーリー。
 行動はすべてにおいて過剰であるが、心理描写が貧弱ゆえ、その行動原理が全く理解不能(例えば、急にレイプされて出来た子供を産みたいという下りなど)である。「OUT」や「柔らかな頬」のような作品はもう描かないのであろうか。これはごまんとある読み棄てノワール小説、即ブックオフ行き決定。