2010年8月13日金曜日

ミスター内調の回顧録

『日本のインテリジェンス機関』 by 大森義夫(2005)

 宮沢、羽田、村山、細川、橋本と5人の歴代首相に仕えた元内閣情報調査室長の回顧録。
 湾岸戦争、阪神大震災、オウムの一連の事件、ペルー日本人人質事件など当時のインテリジェンス的重大事件を絡めつつ、各首相の性格をも描写し、黒子に徹した氏の視座から見た時代そのものが垣間見れて非常に面白い。
 「インテリジェンスの前庭(フロントヤード)から」にはじまり「インテリジェンスの裏庭(バックヤード)から」で占める構成もハイセンス。
 「情報」とは「敵情報告」が由来という一説、モーゼの11番目の戒律「汝、見つかるなかれ」、なども初めて知った。また、諜報活動の基礎は新聞スクラップなどの極めて地道な作業(今であればネットでの情報収集か)であり、情報をいかに入手し有益に生成するか、というのがインテリジェンスに携わる者としての真骨頂であるとしている。
 本書を通じて、氏が伝えたいのは、決して自らの功績自慢ではなく、日本のインテリジェンスの未熟さへの憂慮。まず挙げられるのは、アメリカでは大統領と腹心があつまれば、そこが食堂であろうと、諜報会議が成立する("Kitchen Cabinet")のに、日本とくればヒエラルキー的手続きを踏んでトップ報告をせねばならない、その間にどんどん情報劣後になってゆく、というシステム的問題。併せて大きいのが、いわゆる「情報の専門家」不在により、情報そのものが官僚や政治家の “status quo”(現状維持)の道具として扱われる現状である。インドのRAWなどアジアにも優秀な諜報機関ができはじめていることを見るにつけ、北朝鮮問題や台湾問題、北方領土問題など近くに火種を抱えるなか、日本はこのままでいいのか、と大いに考えさせられる一冊である。

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