「幽霊座」「鴉」「トランプ台の上の首」の三編収録。
いずれも戦後初期を舞台としており、歌舞伎がまだ庶民の娯楽だった時代の芝居小屋(「幽霊座」)や、隅田川沿いの家々にボートで惣菜を売って回る商人(「トランプ台の上の首」)など、古き良き時代の情景が浮かんでくるようで、昭和風俗史の語り部としても横溝正史は類いまれな存在であることを実感させられる。
前二編はいずれも死んだと思った人間が生きていたトリック、中国の阿片窟や戦後の混乱など、当時の時代背景を隠れ蓑にしてこそ成り立つ物語となっている。さらに、「幽霊座」は犯人の少年時代からの異常な残虐性をも描いており、当時から少年犯罪というものが身近な社会問題であったことをうかがわせる。
「トランプ台の上の首」は横溝トリック、というかミステリーの王道である「密室」「首なし」「身代わり」などのトリックをふんだんに使い、技巧的な極致まで小説を導こうという実験性が表れている。(氏は、世のミステリー小説は大まかに上述の3トリックに分類される、と、別の小説で語っている。半世紀以上前ながらかなり本質をついた指摘である)
トリック手法、古き良き東京の風景、そして金田一耕助のヒューマニズムあふれる謎解き、と短編集ながら横溝作品の魅力がぎっしり詰まった一冊である。
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