2008年11月5日水曜日

威風堂々

『李歐』高村薫

 今更ながら、高村氏のデビュー作(を下敷きにした本書)を読んでいないことを恥じ、久々(約2年ぶり)に読んだ同氏の作品。ここ最近はそこそこの良書に出会っていたつもりであるが、やはり高村薫は別格である。ここまで小説の中で歴史と世界をバックにしたスケールの大きな大河ドラマを重厚に描ける作家はそう思いつかない。重厚というのは、つまり氏の好きな機械工場、公安の行確、(ソフトな)ホモセクシュアルなどゴシック的世界観が隋所に散りばめられ、読む者を飽きさせない手法である。本作では、スーパーマン華僑・李歐を通じてフィリピンの政変、ウォール街、ベルリンの壁と世界の激変を映していく一方、大阪の下町工場にいる主人公・吉田が定点観測的な役割を果たしている。
 と、ここまでは他の高村作品と大差はない。本作が異質であるのはハッピーエンドであること。もちろん途中、悲惨な死もあれば、そこに至るまでのプロセスも延ばしに引き延ばされている。それだけに意外なエンディングのカタルシスはひとしおである。非常に重みのある救済と希望。遅ればせながら、新たなマスターピースの誕生である。

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