2008年8月22日金曜日

プロットの妙

 先日の「新世界より」以来、この夏は矢鱈滅多と悪鬼・魔物づいていた感がする。(でなければ、100m決勝があんな風に映るわけがない)その真打ちが、今から約100年近く前に著されたにもかかわらず、未だ燦然たる輝きを放つ不思議な書「巨匠とマルガリータ」by ブルガーノフ。
 ロシアのルイス・キャロルというべきか、20世紀のドストエフスキーというべきか、この物語はとにかく1930年代の人々の堕落と腐敗を容赦なく切り刻んでいる。キリストの死(キリストの実在もこの物語のサブテーマでもある)と現代が物語内で並列に進行する構成は、パゾリーニの「豚小屋」を想起させる。また、ある日アパートや公営劇場に闖入者がやってきて、そこの住人或いは従業員の生活を滅茶苦茶にする、というストーリーはカフカや公房の小説のデジャヴのような感もある。この物語の芯になっているのは、神を信じないなら悪魔に身を委ねよ、という単純明快なメッセージ。結局、人の意思は目先の利益、せいぜい自分の人生の範疇しか捉えられないほど貧素であるが故、大局的に万物を司る神的存在が必要なのである、ということか。
 「新世界より」の世界設定も想像を絶するものだったが(と同時に著者の難産ぶりも窺えた)、この物語内舞台設定(劇団がモスクワにやってきてアパートの一室を借り公演をする)、期間設定(実質4日間)もまた絶妙。この具体的なプロットがドストエフスキーやカフカのような暗さを打ち消し、むしろキャロルのメルヘン世界を見ているような喜劇調に物語を持っていっている。(あとがきで分かったことであるが、ブルガーノフはもともと演劇畑の人間)
 20世紀初頭のロシア文学としては驚異的なほど現代とシンクロし、かつエンターテインメント性に富んでいる。

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