「生首に聞いてみろ」 法月綸太郎(2002)
トリック的には芸術家にしかわからない部分も多く、死者の交代や抜歯による骨格の変化などやや強引なプロットを多用している感が否めない。にもかかわらず十二分に楽しめた。この作品において特に気にいった点は二つある。
まずは、アンチヒロインの物語であること。序盤では登場回数とセリフの多さ(しかも優等生っぽくウザい)から名探偵・法月の右腕となるヒロインキャラになるのでは、と思われた女子大生・江知可は、無残に殺され、生首が宅配便となって届けられる。しかも目を見開いたメデューサのような姿で・・・。あとのキャラははっきり言って曲者あるいは悪人ばかり。決して正義の物語ではない。
もう一点は実在する都市のディテールに抜かりないこと。小説では町田・八王子・名古屋が主な舞台となるが、八王子・鑓水や黒川紀章デザインの名古屋市美術館といった隠れた名所の解説に当該地に対する愛情がうかがえる。
そういった意味では、展覧会の準備のために名古屋市美術館に赴いた「個展オーガナイザー」(登場人物としては3・4番手程度、商業主義の権化)のもとに生首が届けられる一部始終を描いた中盤数頁の“Interlude”こそこの小説の白眉。ここで初めて「事件」は起こり、物語も一気に加速する。
エラリー・クイーンの影響下にあることを公言している筆者であるが、クイーン小説の名物「読者への挑戦」に代わり、主役外に視点を移し事件を投影するという高度な手法を難なくやってのけている。
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