横綱・朝青龍が電撃引退した。
初場所で優勝した直後、白鵬には昨年から(本割で)7連敗中だったものの、まだまだ余力を残しての引退だけに、史上最強横綱という幻想は今後必ずや角界そして彼の周りについてまわることであろう。
暴行事件の真相や今後の身の振り方についてはゴシップ報道に任せるとして、内舘牧子氏に「アスリートとしては一流だが横綱としては認めない」と最後っ屁をかまされた朝青龍の功績を振り返りながら、角界に残したものについて論じてみたい。
ちょうど貴乃花が引退した2003年に横綱に昇進した朝青龍。その豪放磊落な取り口と私生活、不遜な言動は、前時代を牽引した優等生・貴とは正反対、まさに“リアル播磨灘”であった。伝統やしきたりの名のもと閉塞感が漂う角界に風穴を開けた彼は、00年代の角界の象徴にとどまらず、当代きってのヒーロー(ヒール)であった。そんな彼に足を引っ張られるように00年代の角界はかつてないほど負の連鎖に見舞われ(朝関の仮病疑惑、八百長暴露、暴行死事件、薬物汚染…)、日本相撲協会の評判は落ちるところまで落ちきったと言ってもよい。不祥事のたびに改革・改革と叫ばれ続けてきたが、協会のドル箱でもある横綱をコントロールできないようでは、真の改革はありえない。モンゴルの大草原を走り回っていた少年は、その奔放さのまま強さを追及し続け、いつしか協会の枠におさまりきらない存在になってしまったのである。
しかし土俵上では、彼が(不甲斐ない)日本人以上に「相撲道の発展」に寄与したのはまぎれもない事実である。2年前の楽日決戦で日本人がいなくとも感動を呼び起こすという偉業をやってみせ、角界は新たなフェーズに突入した。時代を前進させるのは常に朝青龍のような異端児である。(白鵬のような優等生ばかりでは業界は発展しない。白の強さが引き立つのは青がいてこそ。)
土俵上では相撲道を発展させる一方で、土俵外では相撲界の地位を著しく貶めた稀代の横綱。いずれにせよ、次の大阪場所はかつてないほどの大きな喪失感が土俵を覆うに違いない。そして、貴乃花新理事に期待するよりも何も、次代を担う現役力士が出てこない限り、2010年代の角界の先行きは暗いとしかいいようがない。(最後の日本人横綱対決が91年夏の北勝海―旭富士以来更新されてないのは悲しい限りである。)
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